短歌

  窓と家(5首)

わたくしの住まえる家に窓のなし串刺天使メタトロンはねのしろ未だし

水晶をまねて造りし我が家をルドゥーさえも无みせるものかは

窓こそは家のかたちと我がえて窓のみの家を雲のなか

単子論うとうと読みてひるがりあじなきひび佛佛ほのぼの暮れる

窓もなき密房へやにしひとり鏡置き映り込む夜を砕かんとす

短歌

黒鳥のわがもとへ来て罵れる声ごえのみ機械さびめく

あわあわと水鳥なける闇黒淵やみわだにうつるれ消えななむ

罔両うすかげこまやかなりぬ街ののわがそびらより来てける

やわらかき墓羣はかむらならにわにも灰白色の林学者

冷たさの明るみのあるあのあたり玻璃がらすの朝にわ暗澹

11月に読んだ本(2023年)

・長谷川龍生:長谷川龍生詩集(現代詩文庫).思潮社,1969.
・長谷川龍生:続・長谷川龍生詩集(現代詩文庫).思潮社,1996.
佐佐木幸綱:作歌の現場―若い人のための実作入門書(角川選書).角川書店,1988.
大岡信岡野弘彦丸谷才一:歌仙の愉しみ(岩波新書).岩波書店,2008.
吉岡実:新選 吉岡実詩集(新選現代詩文庫).思潮社,1978.
臼田捷治工作舎物語―眠りたくなかった時代.左右社,2014.
・加藤郁乎:後方見聞録(学研M文庫).学習研究社,2001.
巖谷國士種村季弘、出口祐弘、松山俊太郎:澁澤龍彦を語る―1992~1995の対話.河出書房新社,1996.
・馬淵美意子:馬淵美意子詩集.創元社,1952.
中井英夫:定本 黒衣の短歌史.ワイズ出版,1993.
・本の手帖 第8巻第8号(通巻78号)―特集 日夏耿之介昭森社,1968.
大岡信:現代詩人論(講談社文芸文庫).講談社,2001.
網野善彦阿部謹也:対談 中世の再発見―市・贈与・宴会(平凡社ライブラリー).平凡社,1994.

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 11月は詩歌について考える月でした。『連句辞典』(東京堂出版)を購入したので、12月に入ったらひとりで歌仙を巻いてみるつもり。

 長谷川龍生と馬淵美意子は初読でしたが、どちらも好ましい昏さが認められたのでよい発見となりました。それとは別にいくつかほしい歌集があるものの人生に数度目の貧窮に喘ぐ日々。

 それから、松山俊太郎が意地でも澁澤の書いたものを読まない感じ、何故か妙に頷けました。そして、工作舎について読んでいる折、〈過剰〉について、マニエリスムとの関連から、もう少し考えてみる必要があるように惟われたのでした。

 ただ、12月は読み止しの本を片付ける月になりそうな気も。以上。

短歌

  朽葉(6首)

くれないの世界ぞあわれ我が貌をれてしずめる街の底にも

おだしきのわだありき貝殻のいくつを拾いが聲を聴き

塋域にちたる若樹まがなしきあえかな光さざなみだちき

海の瓊玻にわたづみをおさめ掌へささやかなうたいよよ飛び立つ

真夜中の水のほとりに乃今いまて要らぬ月かげ要らぬ淋しさ

そこにいて跳ねてかおりし何者ぞぼくらはふたり死葉しにばを焚けり

  夕映(3首)

夕映を出でて十歳ととせちにけり我が真宅の御舎みあらか

月極の駐車場へと忍び入る夕映しるし今日かえりゆく

夕映のひととなりてし汝兄なせ流景ひかりのうちにて撫でゆけり