短歌

星辰界(5首) 余わたくしの平方=イコール汝きみなりしとき星辰の熱をし佩びけむ 星月夜――迷宮学の線を曳き余われなるものの出口鬱ふさがる パトグラフィーの教本に誌しるされしわれらが父の聲を環めぐらむ 曐曐ほしぼしを戴冠せらる三日月の有もたるる杖の…

2月に読んだ本

・幻想文学 37号―特集 英国幽霊物語.幻想文学出版局,1993.・東浩紀:訂正する力(朝日新書).朝日新聞出版,2023.・木澤佐登志:闇の精神史(ハヤカワ新書).早川書房,2023.・テラス,アントワーヌ/與謝野文子゠訳:ポール・デルヴォー(シュルレア…

短歌

薄氷(5首) 水深も幾ほとんど零にほど近き行潦にわたづみ蹈ふむ爾きみゆきげ月 爾きみの躬みを泛うかぶに適ふさう小さ膜うち破る日のうら悲しけむ 水銀の似ごとき円盤翺とび徃ゆけり豫言者どもの瞳めはしまどしき 躬みを冲ひいる季ときもやがては喪に服し最…

1月に読んだ本(2024年)

・高山宏:かたち三昧.羽鳥書店,2009.・ボルヘス,ホルヘ・ルイス/内田兆史+鼓直゠訳:シェイクスピアの記憶(岩波文庫).岩波書店,2023. ・丸山圭三郎:言葉と無意識―深層のロゴス・アナグラム・生命の波動(講談社現代新書).講談社,1987.・高山…

短歌

静物 卓上に竝ならべし骨の眼の虚ろ人工洞窟グロッタの如ごと洞洞たりき 甕星の白き光のほのみえて有翼の蛇ゆるるかに堕つ をんなてふ體溫計を插し入る夜 不氣味なるものあまた覩みえをり 媾婚星よばいぼし青く耀かがよい夕星ゆうづつの空に無かりき火船の聲…

短歌

銀紙を海に想みたてし午后三時置かれまほしき菓子の透明 われわれは完全人のかたわれぞアンドロギュノスの裔すえを夢む 楽の音も樋を流るる糸の根とnocturnalistの予型論 途みちの端はに何も映ぜぬ鏡あり双面神の貌の夕暮 不死鳥の翅はねを拾いきむつみ月わ…

短歌

或る日の朝(5首) ほとおりの凍れる朝の淋しさのほむらのごときマフラーを巻く くちなわのあが古里の坍を這い逶くねるひはひで陽いつわれるひと 磨きつつ何をば想もえるバールーフ・デ・スピノーザの碧きあさ寒 果みもなしに透度ゆたけし脳髄は硝子の函――爾…

12月に読んだ本(2023年)

・吉行理恵:吉行理恵詩集(現代詩文庫).思潮社,1975.・panpanya:商店街のあゆみ(楽園コミックス).白泉社,2023.・西垣通:思考機械―太古と未来をつなぐ知(ちくま学芸文庫).筑摩書房,1995.・岩田慶治:自分からの自由―からだ・こころ・たまし…

短歌

窓と家(5首) 余わたくしの住まえる家に窓のなし串刺天使メタトロンの翅はねのしろ未だし 水晶を摹まねて造りし我が家をルドゥーさえも无みせるものかは 窓こそは家のかたちと我が惟もえて窓のみの家を雲の最さ央なかに 単子論うとうと読みて午ひる遲さがり…

短歌

黒鳥のわがもとへ来て罵れる声ごえの濁だみ機械さびめく あわあわと水鳥なける闇黒淵やみわだの水みの面もにうつる余われ消えななむ 罔両うすかげの濃こまやかなりぬ街の燈ひのわが背そびらより来て逝ゆける逐おう やわらかき墓羣はかむら竝ならぶ斎ゆ庭にわ…

11月に読んだ本(2023年)

・長谷川龍生:長谷川龍生詩集(現代詩文庫).思潮社,1969.・長谷川龍生:続・長谷川龍生詩集(現代詩文庫).思潮社,1996.・佐佐木幸綱:作歌の現場―若い人のための実作入門書(角川選書).角川書店,1988.・大岡信、岡野弘彦、丸谷才一:歌仙の愉し…

短歌

朽葉(6首) くれないの世界ぞ悲あわれ我が貌を伴つれて没しずめる街の底にも 隠おだしきの海わだの畔べありき貝殻のいくつを拾い汝なが聲を聴き 塋域に彳たちたる若樹まがなしき幺あえかな光さざなみだちき 海の瓊玻にわたづみをおさめ掌へささやかな詩うた…

短歌

雑詠 へべれけを救けし夜のついにきて佐美雄の哥うたをいくたびか誦す むな底に詩女神ミューズなる器官あり黒き液汁われを懊殺す 生活はまばゆけれ予わが夢裡に入り圃場に宁たてる白鳥は去いぬ 秋の日に世界はいっそ眼となってさまざまなりしわれ瞶みつめい…

10月に読んだ本

・村岡栄一:去年の雪(YKコミックス).少年画報社,2023.・エルド吉永:龍子(トーチコミックス).リイド社,2023.・藤本和子:イリノイ遠景近景(ちくま文庫).筑摩書房,2022.・大野晋:古典文法質問箱(角川ソフィア文庫).KADOKAWA,1998.・藤…

短歌

銷閑の折、聖約翰ヨハネ騎士団を懐おもいて詠める(二首) 赭門あかもんの騎士団旧かつてかありけむ。笛の鳴ねありて月精つきは没しづきぬ 葬処はふりどを出でたる余われを成らしめよ、典薬寮ホスピタルなる黒衣の隠士 病床にて(三首) 寂莫じゃくまくは言…

短歌

暮鳥に 聖三稜玻璃に綺羅美の屈折光 冷寂の閨 虹蜺の交 清白に 秋成の沈める書ふみを引き揚げし船にぞ竚たてる柿の実腐あざる 有明に 壊くずれ来し白き月をば磐いわの上えに無絃の琴を独り爪弾く 珥みみだまの落ちる音はも途みちの端はな 玄はるか延びゆくか…

9月に読んだ本(2023年)

・水越康介:応援消費―社会を動かす力(岩波新書).岩波書店,2022.・久保(川合)南海子:「推し」の科学―プロジェクション・サイエンスとは何か(集英社新書).集英社,2022.・田中優子、小林ふみ子、帆苅基生、山口俊雄、鈴木貞美:最後の文人石川淳…

8月に読んだ本(2023年)

・野口冨士男:しあわせ かくてありけり(講談社文芸文庫).講談社,1992.・有田忠郎:有田忠郎詩集(日本現代詩文庫).土曜美術社,1992.・川西政明:小説の終焉(岩波新書).岩波書店,2004.・窪田般彌:窪田般彌詩集(現代詩文庫).思潮社,1975.…

短歌

そこばくに邈とおく彳たちたる逃げ水の似ごとく揺らめく赫のスカート 卓上に噴水のあり ささやける暮鳥の一聲 朔きたの星はも 電いなづまよ 月のかげより還りたるわれ主宰せるわれの淋しき 口馴染みする言葉なも味気なき――聴こえねえって! 百合の花咲く

咒めく夕

作 者:ヴィーチェスラフ・ネズヴァル(1900-1958) --- 咒まじめく夕ゆうべは浴ゆあみする玄くろきみづうみ界さかいと做せむは樹木の荘かざる空虗の小路恆つねに霊響たまふる曐ほしの楡龝 あきめき昏くらむ惑いの瞳睲めだま

7月に読んだ本(2023年)

・高山宏:[解説]「常数」としてのマニエリスム.In:ホッケ,グスタフ・ルネ/種村季弘、矢川澄子゠訳:迷宮としての世界―マニエリスム芸術 下(岩波文庫).岩波書店,2011.・堀田善衛、司馬遼太郎、宮崎駿:時代の風音(朝日文庫).朝日新聞出版,1997…

背日性の暮し

真昼に天降あもる最闇黒 我惟あもうとは言えずに消ゆ 束の間の羽搏き 踆烏の流景ひかりあり 爾きみの御胸に貪る最微瀾 久遠の幽壙すまいに魔業まじわざの私言ささめき ふぃん・で・しえくるの咒文かしりあり 秘蹟しるましは腐爛 蝙蝠かわほりの竪子こ訪とい…

短歌2

傍役わきやくと謂いわれし吾の物語り 見えざるものの聲収めたり l'amourラムールをlemurレムールとの錯簡あり 或いは愛を或いは霊を 鬼城の句、口くち吟ずさみつつ徒かち歩あるく。あの凍蝶いててふも翅灼かれけり 花にさえ嚙みつかれけり。奇美拉キマイラの…

短歌

都奇つきと書く 街に瑰くすしき真澄鏡まそかがみ 住み古りてなお待ち遐どおし汝きみ 星天降あもる 微冥ほのぐらき河うち照らす月魄つきしろは无なし。今し二人は さようなら 朝明あさけにくらし海族いろくづのふたり相あい離さり余香漾ただよう。 たやすくは…

6月に読んだ本(2023年)

・種村季弘:失楽園測量地図.イザラ書房,1974.・大田俊寛:現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇(ちくま新書).筑摩書房,2013.・京極 夏彦:文庫版 地獄の楽しみ方(講談社文庫).講談社,2022.・常光徹:口承文芸の研究I―学校の怪談(角川ソフィ…

短歌

おくつきへきみの眠りをおかしつつしるましを覵ゆおそろしき夕 おぞましき夢を見し夜 独りいる我、野性的な風、ノスタルジア。 抱擁交わすことだに無く、ただみつめあう小部屋を世界とぞ言う。 夏の風 わが夢魂さえ吹き散じ尚おも窓より見るありのまま 別れ…

随眠行

爾きみの悒鬱ゆううつは 阜おおきな焉 幺あえかなる光 降る夜よ 玄黒の翼を疵きずつけし 爾きみ 万象は 寂しづかに見入る 幽光の炎もえる 交差点 开そはひとの含羞の河水 果して爾きみの頰紅を溶く 夢寐に仆たおれ臥ふし 今もう 爾きみは無声の夜 無声の 経…

短歌

呼びとむる臆病者の声、幽か。あなさびしかるわれのこすキミ とめどなくわが眼に映れきみの眼よ あかるき部屋にまどろみてをり 梅雨寒にせなのまろめるつまの手のもしかありせばハンドクリーム 七変化 かがみの嘘に付き合えば襤褸を着てこそひとり片笑め こ…

読んだ本(2023年5月)

・調査研究趣味誌 深夜の調べ 第1号.同人誌,2023.・今敏:海帰線(ヤングマガジンコミックス).講談社,2018.・鏡リュウジ:タロットの秘密(講談社現代新書).講談社,2017.・網野善彦、宮田登:歴史の中で語られてこなかったこと―おんな・子供・老…

廃墟と屋台

亜熱帯の模造装置へ 破われた窓より忍び込む 腐敗した植物の残骸 遺贈した篤志家の碑銘 これら塋域えいいきは夜よごと牽ひかれ 永遠に街を廻まわり続けている 烟もやのかかった夢の中 展ひろがりを缺かく大通りを徃ゆけば 巨おおきな交差点に彳たっている 冥…