短歌

  静物

卓上にならべし骨の眼の虚ろ人工洞窟グロッタと洞洞たりき

甕星の白き光のほのみえて有翼の蛇ゆるるかに堕つ

をんなてふ體溫計を插し入る夜 不氣味なるものあまたえをり

媾婚星よばいぼし青く耀かがよ夕星ゆうづつの空に無かりき火船の聲す

手鏡の裏にひそめるかおに塗られしあかやがかわかむ

短歌

銀紙を海にたてし午后三時置かれまほしき菓子の透明

われわれは完全人のかたわれぞアンドロギュノスのすえを夢む

楽の音も樋を流るる糸の根とnocturnalistの予型論

みちに何も映ぜぬ鏡あり双面神の貌の夕暮

不死鳥のはねを拾いきむつみ月わが涙さえ毒と

短歌

  或る日の朝(5首)

ほとおりの凍れる朝の淋しさのほむらのごときマフラーを巻く

くちなわのあが古里の坍を這いくねるひはひでいつわれるひと

磨きつつ何をばえるバールーフ・デ・スピノーザの碧きあさ寒

もなしに透度ゆたけし脳髄は硝子の函――の孕める卵

路地裏に椿のえまうこよなさに賓客まれびとのあとう時は

12月に読んだ本(2023年)

吉行理恵吉行理恵詩集(現代詩文庫).思潮社,1975.
panpanya:商店街のあゆみ(楽園コミックス).白泉社,2023.
西垣通:思考機械―太古と未来をつなぐ知(ちくま学芸文庫).筑摩書房,1995.
岩田慶治:自分からの自由―からだ・こころ・たましい(講談社現代新書).講談社,1988.
岩田慶治:〈わたし〉とは何だろう―絵で描く自分発見(講談社現代新書).講談社,1996.
・加藤直人:メタバース―さよならアトムの時代.集英社,2022.
・バーチャル美少女ねむ:メタバース進化論―仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界.技術評論社,2022.
西垣通:デジタル・ナルシスー情報科学イオニアたちの欲望.岩波書店,1991.
・コスタビ,マーク:マーク・コスタビ画集―ビデオ・レンタル・ショップが閉っていて、悲しい。.トレヴィル,1988.
斎藤史斎藤史歌文集(講談社文芸文庫).講談社,2001.
出口裕弘辰野隆―日仏の円形広場.新潮社,1999.
高山宏パラダイム・ヒストリーー表象の博物誌(アスファルトブックス).河出書房新社,1987.

---

 最近、〈機械さび〉というものを考えている。奇しくもマニエリスム情報科学といった諸点と繫がってきたような気がする。もうちょっと関係する書籍が手に入りやすくなるといいんだけど、そもそも先立つものが無いのが悲しいところ。