短歌

  雑詠

へべれけを救けし夜のついにきて佐美雄のうたをいくたびか誦す

むな底に詩女神ミューズなる器官あり黒き液汁われを懊殺す

生活はまばゆけれが夢裡に入り圃場にてる白鳥は

秋の日に世界はいっそ眼となってさまざまなりしわれみつめいよ

液質をまといて睡る秋の夜こおりしわれのくだかれまほし

  月(3首)

月かげをきざはしとせば昇らまし生きものはみなうみしずみき

月かげにひかる秘文字の兎書をはなけれひとり水浴みあみす

月かげをそそげる眼だま真澄鏡 つくにの蛇 池とりけり

  街と海(4首)

街なみを海にたとえし詩人いて坂の艦橋ブリッジへはららかの風

ばされの非常階段へと遁れたななし小舟おぶねみな底にみゆ

汐風のほそぼそとく屋上に作庭術の講筵をきく

漠漠あおあおと靄かかりたる窓はゆめ風をしあつめつたどるたどる